恋/yukimura
 
辞のように

闇が包む操舵室に蝋燭を灯す
壊れた機器は元に戻らない
貴女の存在が酸素のように広がっている


このまま気の済むまで 落ちていきたい

どこまでもずっと深く 深くまで
眠るように遠く 遠くまで

水龍の背のような 旅路の先へ


大きな衝撃と共に船は心の底に辿り着いた
ぱらぱらと塵が舞い降りてきた
海上では日が昇る頃かもしれないが
光はここまで届かないし
届けられる必要もない
仄暗く冷笑する鏡よ
懲罰のように膨らんでいく恋情よ
世界は名の知れたマジシャンの手際で
一人の男を消失させた
俺の中に生まれた貴女の孤独を知ってるから
俺はもうどこにも行くことはない

ああ、深海(ふかみ)。
なだらかに揺れる悪戯な聖女は
今頃どこにいるだろうか
苦しさを滲ませた呼吸で
小さく意を決すると
合図を待っていたように
硬質の外壁が弾け飛び
魔物のような水が雪崩れ込んでくる

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