金色の海で/蒸発王
 
瞬だけ
彼の笑顔を見た
ざ ざ
 ざ
 ざざざざ ざざ
   ざ ざざざざざ
       ざ ざざざ
      ざ ざ
         ざ 
大きな金色の波が
またしても私を飲み込み
髪の毛をかき乱し
呼吸だけで
彼が何か呟くのが聞こえた

(ありがとう)
とも
(さようなら)
とも
聞こえた其れに
必死で眼を開けると

彼の姿は無く

波の音と
ケイタイの着信音が
鼓膜を揺するだけだった


何故か 
  
本当に何故だか
私は全て納得し
ケイタイが告げる
彼の遺体発見のニュースに
溜息をついた






ああ

あの瞬間(とき)
金色の海で
私は上手く笑えていただろうか






『金色の海で』

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