蒼茫のとき?死の風景/前田ふむふむ
1
漆黒の夜を裂いて、神楽の舞が、
寂びた神社の、仄暗い舞殿で、
しなやかな物腰を上げる。
右手は、鈴の艶やかな音色が、薫る。
あとを追う鳥のように、左手の扇子は、鈴と戯れる。
女は、張りつめた気配に身をまかせて、
青白い一夜を舞いつづける。
夜の月を切断しながら、
女の馥郁が、脇役に控える、森の尖塔たちを、覆い、
揺れる濃厚なみどりの波紋に、
眩い闇の閃光が、ゆっくりと、衣を脱いでゆく。
森の波紋は、女の舞いに合せて、ときの傲岸を超える。
2
轟音が騒ぐ、耳は大きく夜の言葉を拾い上げる。
甲高く滝が砕ける音が、清められた夜の芯を貫
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