鳥籠あるいは高い塔/石瀬琳々
高い塔がある
空を突き抜け街を睥睨(へいげい)するように
その塔はそそり立っている
塔には一人の姫が住んでいた
囚われているのではない
自ら閉じこもっているのだ
目も耳も口も絹糸で縫い閉じて
何も見なくて 聞かなくて
言わなくて 済むように
何から逃げているのか
自分でも分からなくなる時がある
父王や母后(ははきさき)の束縛から──
名誉欲を満たすだけの求婚者たちから──
それとも この醜い世界からだろうか
何も見ないよう 聞かないよう
言わないよう そっと
やわらかな布団にくるまって
闇の静けさにくるまって
やがて 時も{ルビ文目=
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