水鉛/加藤泰清
ワンピースをきた女の子が
お札を両手に持って
これはお駄賃ですよとその手を差しだす
この手は子どものようにちいさい
ゆるやかな曲線を描いて両肩から
ちいさなバレッタに目をやると
わたしの視界の底のほうから
やわらかなひかりがあふれている
かのじょのなみだがかのじょのむねにしみこんで
ちくびがすけないかなとねがうが
お駄賃をいただいた右手が
どうにも地面を指差して
これがうきよのすべからく
などといみふめいなことばを呟いているので
かわりに左手でそっとかのじょの頬をなでてやる
すると周りの景色は思いがけず
すみわたる水鉛と化していく
わたしがお札をくちゃくちゃと食べ終わるまで
あなたはわたしのそばにいてくれと
わたしの左手に力が入り
かのじょの左頬はそっととけた
あごがおちた
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