鉄条網リアル/ブルース瀬戸内
 
金網の向こうに現在がある。
理屈は液状化して視覚に依存する。
それでも私は言葉を片手に
思考の周縁の限界線を窺う。

時間がない。
身命が有限であることを捨象するほどに、
私は彼方へ急いでいる。
空間はブレている。
揺らぐ地平線はそれでも
距離に応じた孤高を形成している。
身体が思考を明瞭にするという錯誤に
私は囚われていた。
そう分かっていて私は走った。
一秒を思って私は走った。

理屈は液状化して視覚に依存する。
思考の周縁に人生が積もっている。
時間は明日を目指す。
空間はブレを増す。

これが渾身のラブレターだと
言い放つことは可能だろうか。

[次のページ]
戻る   Point(6)