風が記憶/結城 森士
静かな
白い波打ち際の日
僕の息が風
少年は貝殻を探す
波と
鼓動が聞こえる
入道雲
笑いかけた日が
空を駆け抜ける
茜色の落ち葉を
歩道に叩きつけた日も
僕の息は枯葉を舞い上げた
その日も
赤く透いた空気に薄れていく
思い出
心に落ちる前の記憶
の断片
感情が風に流れていくように
枯葉は記憶を刻む
風が記憶
ならば瞬間に
電燈の光は雪の歩道を照らし
静寂の世界を創った
星空の涙を点燈して
少年はそのまま
記憶の中に消える
雪を踏みしめて
僕も行く当てがない
それでもまだ
呼吸している
鼓動が聞こえる
溜息は
冷たい手に
僕の息は
上昇気流に乗って
屈折した日々に別れを告げる
此処にある、此処にある意識
僕の息が風ならば
全ての世界は記憶に過ぎない
優しい日差しを背に
タンポポは
咲いた
少年の日の記憶を乗せて
綿毛が風に散乱する
静かに
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