肺 茸/「Y」
俺は妻のグラスにビールを注いでやった。
準備は整った。
「ねえ、ちょっと黒ずんでるね」
呟くように妻が言った。
椎茸をうんと小ぶりにしたような形状の、夥しい量の肺茸が、皿の上に載っている。
こんがりと良い色に揚がっているが、肺茸そのものの色は、妻が言うように、かなり黒ずんでいる。
「そう? いい色してると思うよ。なにしろ新鮮だし、医者も太鼓判を押していたよ」
「太鼓判?」
「そう。肺茸は美味しいと評判らしい」
「ウソ! 信じられないわ」
「嘘とはなんだ。失礼な」
「……ゴメンなさい」
「お前、先に食べなさい」
「結構です。あなたから先に食べて」
「うん。
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