メメント・モリ/大覚アキラ
真夜中に喉が渇いて目が覚めた
暗闇の中をキッチンに向かって
手探りで歩きながら
父と母のことを考えていた
父と母には
そろそろ死んでもらいたい
彼らのことを
とても愛しているから
だから
そろそろ死んでもらいたい
身体が動かなくなって
寝たきりになって
死ぬまでベッドの上で
床擦れに苦しみながら
身体中に管を通されて
機械に繋がれて
食べこぼしたものと
自分の排泄物にまみれて
やがて
自分の子どもの顔も
忘れてしまって
自分が誰なのかも
わからなくなってしまう
そのまえに
死んでもらいたい
苦痛や恐怖を味わうことなく
スイッチを切るように
一瞬で終わりが来る
そんな死を
彼らに与えてほしい
そう願うことは
間違っているのだろうか
冷蔵庫の扉を開いて
薄暗がりの中
コップに注いだ水を一気に飲み干す
ふと見れば
足元に影がない
きっと
こんな夜に
人は死神と出会うのだろう
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