クジラになった少年/佐野権太
 
ちるから
どうしようもなく
ぽたぽた零れてしまう

白いノートに滲んだ青を
窓際の少女が驚いたように見つめている
握りしめていた手を
開いて見せると
瞳がさらに大きくなる

じっと僕を見据えたまま
机の中から抜き出した少女の手は
すべての指が
青く染まっていた



放課後
僕らは青い手をつなぎ
若い二頭のクジラになる
絡めた指から風が生まれて
細胞に織り込まれた
尊い海の記憶がよみがえる

  子宮の隔壁をさするさざ波の振幅
  懐に潜り込み暖かい乳を求める生命の純朴

  滑らかな裸体を染める残照
  低い遠吠えを放ち潜行する群青

家族のように手をつなぐ
僕らには
何の矛盾もない

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