「熱射する朝」/do_pi_can
 
怖かったから」
何が?
「・・・・・が」


あなたの声は、激しく流れる川の音に
かき消され、僕の手前で崩れ落ちる

そうか、あの年の夏は、とりわけ雨が多く
毎日のように、どこかの川が氾濫していた


あなたですよね?
「・・・・・・」


全てがかき消される
川の濁流に?
いや、時の流れに?

上宮川橋の角のフルーツパーラーの前で
最後のキスをしたよね
あの時、あなたのあそこは、店先の
ざくろのように真っ赤に割れていた筈だ


「あっては、ならない事でした」
僕は、あなたのあえぎ声を覚えている
「すべてを忘れてください」
四畳半の薄汚れた部屋で
あなたと抱き合った
あなたは、降りしきる雨を見ながら煙草に火をつけた
「どうして、そんな作り話を」


濁流に飲み込まれて行った僕の時間は
全てが作り話だったのか

次の瞬間
あなたはどこかの見も知らぬ女の顔で姿を現す
僕は、慌ててポストにしがみ付く
全てが熱い、そして赤い



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