遠雷/嘉村奈緒
鎌はとても優しい
俺は粗暴に鍬を振る
一冬だ
世界が滅菌されていくような
泥土色の景色に滲む
それでいてこれが粟なのかひえなのか
けれども粗食だ
毎日手を合わせて願うんだ
小さく願うんだ
願いながら鍬を振るぜ
一等兵だぜ
雪が邪魔ならシャベルも使うぜ
ねえ坊やが喜ぶんですよ
見てくださいよ
でいんでいんでいんでいん
おまえ首に巻くものをやろうか
色の白いものがいいんじゃないかな
長毛のものはどうだろう
長毛よりも新しい鎌がありますように
小さく願う
でいんでいんでいん
彼女は優しいから鍬を持たないんだぜ
俺は粗暴だから鍬を持つんだ
並び終わったら行進をする
行進のあとを坊やがついてくる
坊やの長靴は無地だけど赤い
赤いは南天
たくさんの南天
遠くで
雷
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