ライムグリーン/大覚アキラ
憂鬱はいつも、ライムグリーンの滲みのようにぼくたちに襲いかか
る。よく磨きこまれたボディ全体に周囲の景色を映りこませたライ
ムグリーンの車が、速度を落とさないまま滑るように交差点に入っ
てきて、周囲の景色をごっそりと全部盗んでいった。その磨きこま
れたボディは、映りこんだ景色をまるで手品のように切り取ってし
まい、残ったのはライムグリーンの滲みだけで、景色のなくなった
交差点に取り残されたぼくたちはなんだか恥ずかしい目に遭わされ
たような気分になってお互いに目を合わさないようにして交差点だ
った場所から逃げるように立ち去った。瞼の裏側に鮮やかに残るラ
イムグリーンの残像。そうだ、これが、この色が憂鬱の色なんだ。
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