俺たちの風、syota/佐野権太
いつだって遥か遠くを
見つめていた、正太
本当はそんな名前じゃないのに
誰もがそう呼んでいた
*
学校へ行く途中
平然と菓子パンを買った、正太
朝飯なのだと、悪びれず
無造作に半分ちぎった
菓子パンは罪と育った舌の上
じわりと溶けたピーナツバター
夏だけ水泳部だった、正太
悪ガキになりきれない僕に
おまえも入ればいいと水しぶきをかけた
しがみつくフェンス挟んで天と獄
銀のはじける自由な手足
ひとり自転車通学だった、正太
知人の家に預けているのだと
ためらう僕を荷台に乗せた
突風に落ちて転んだ秋たんぼ
仰向けの空
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