乗り間違えた小熊/砂木
 

砂糖きび畑に踏み込む

背の高い砂糖きび畑は 広く
歩く音が かさこそとする

裸の男は 車の音で 目が覚めていた
夜に 畑の奥にもぐりこみ 知らずに寝ていた

ざわりと 風が 砂糖きびを揺らす
男は 身動きできずにいた

がさがさと 踏みしめる音がする
近い
音をたてるわけにはいかない

男は 仲間達の最後を思った
拳を みる 
また 会おう

その時 銃声がした
何発か 打ち込まれた

熊か
小熊だ
親もいるかもしれないな 
ふん 何もないよりいいだろう 車に乗せろ

ずるずると 引きづられていく音がする
車のドアが閉まる

ざわざわと 砂糖きびが揺れる

騒ぎに気付いた村人に発見された男は
しばらくの間 かくまわれて
やがて 地下組織に入った
闘った男達のほとんどは あの現場で死んだ

時折 砂糖きび畑の中の 拳を思い出す



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