さよなら/230
 
いい加減で気まぐれな夏をほどきながら
ぼくは靴ひもをふくらませていた
祭りでもらった風船をさっくり割った母が
西瓜をたたみながらみんなに声をかける
父は新聞紙を吸いながらなみだを流し
妹は階段から転げ落ちて笑っている

さあ
みんな集まったところで
色づいたおいしい話のところだけを食べて
昨日までの黒いごたごたの種を吐きだそう

大したことではないのに
なんだか少しずつずれていて
ただそれだけのことなんだけど
誰もが知らないふりをしている
そう
知らないふりをしてとぼけている

あのとき
君と何を約束したのだろうか
ぼくはずっと思いだそうとしていた
ほら
誰も知らないぼくたちだけの
秘密の大切な約束のことだよ
ゆびきりのとなりに置いていたのに
ちょっとよそ見をしているうちに君は
こっそり夜のうしろに隠したよね

忘れてもいないことを
ぼくは思いだそうとしている
そうすると
まわりは知らないふりをしてとぼけて
ぎこちなくずれていくばかりだ
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