九死に一生いなり寿司/砂木
 
くて
逃げ出してしまった

両親の 結婚式での 晴れやかで寂しそうだった事
弟のお祝いの歌
プロポーズの時の 嬉しそうな顔
両親に 挨拶してくれた時の くたびれた顔

左手の薬指の 新品の指輪
どうしよう どうしよう
でも 許せない 帰れない

降りた駅は 無人駅で
ひとひとり いない

暗いホームに立つと 途方に暮れた
厳しい父の顔 喜んでいた母の顔がちらつく

どこへ行こう

小さな待合室の中で 恐くて震えた
段々と思い出すのは 
今 逃げ出してきた夫の顔

どこか店で ご飯を食べて帰ろう と言っていた
お父さんに 私を下さいと言ってくれた

[次のページ]
戻る   Point(11)