九死に一生いなり寿司/砂木
くて
逃げ出してしまった
両親の 結婚式での 晴れやかで寂しそうだった事
弟のお祝いの歌
プロポーズの時の 嬉しそうな顔
両親に 挨拶してくれた時の くたびれた顔
左手の薬指の 新品の指輪
どうしよう どうしよう
でも 許せない 帰れない
降りた駅は 無人駅で
ひとひとり いない
暗いホームに立つと 途方に暮れた
厳しい父の顔 喜んでいた母の顔がちらつく
どこへ行こう
小さな待合室の中で 恐くて震えた
段々と思い出すのは
今 逃げ出してきた夫の顔
どこか店で ご飯を食べて帰ろう と言っていた
お父さんに 私を下さいと言ってくれた
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