九死に一生いなり寿司/砂木
 
私 帰るから

駐車場で 車に荷物を入れている 夫に
私は 口走っていた

何か言ったか とふり返った時
もう 走りだしていた

このまま 新居になんか行きたくない
結婚なんてしなければ 良かった

数分後に 実家へ帰る汽車がある事は
新婚旅行の時刻表を決める時 知っていた
ああ これに乗れば 戻れるのね
まだ 憧れていた沖縄に行く前に
少し せつない気持で 覚えた 
乗るつもりは なかった

汽車のドアが閉まる

白浜行きの鈍行は 海水浴帰りの人々
秋田駅から また地元に近づくと
もっと 気持が落ち着くはずなのに

どうしても気になる事がきけなくて
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