残像/光冨郁也
 
を、
くわえ、一口、吸う。
ゆっくりと口から、息をはく。
頭の中で、
自分の班の、
翌日の段取りを考えようとする。
向こうで女性らの声がする。
「まだいいのか」と、
わたしは問う。
Jの横顔の向こう、
少し離れたところで、
OLの二人組が、
腰をつきだし、
ホームをのぞきこんでいる。

アナウンスとともに、
電車がすべりこんでくる、
「じゃあ」とJは、
わたしの愛称を呼び、手を宙にあげる。
わたしも、Jに習い、
指で、胸の前で、合図をする。
わたしたちは別々の、
ドアに向かい歩きだす。
Jは、仲間に手を拡げて、
とけこんでいく。
女性たちの奇声、
赤い唇が開かれ、脚が伸びる。
遅れてきたFも、みなに加わり、
ドアが閉まる。

わたしは、ドアに体をあずけて、
腕組みをし、ガラスに映る、
構内の深さと、
自分の目を見つめながら、
こめかみに指をあて、
Jを真似、
自分の残像に、合図する。

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