望洋フェリー/佐野権太
 
吃水(きっすい)の切り拓く直線に
弾け、昂ぶる蒼波の振幅も
いつか、理(ことわり)を纏(まと)い
穏やかな泡波の
幾重にも沁みわたる

船側をすり抜ける速さに
戸惑い、いつまでも追いつけない吾は
ディーゼルの
くぐもった低音にもたれ
ただ、うねり、ただ

太い咆哮で
茫(ぼう)、茫(ぼう)と許しを乞えば
天体の巡るやさしさで
回頭してゆく
遥か船影

心海を潤おす辛い潮風の
ほどけるがままに
純水を垂らせば
朗(ろう)、朗(ろう)とたなびきわたる、航跡
置き去りの、白

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