恋忘れ草/石瀬琳々
 
恋はもう忘れました
涙はもう忘れました
夕暮れ 野辺にぽっちりと
紅く咲く花は火を燃したようで
その火に触れたら焼かれてしまう
心も指先も あの日の記憶もすべて


恋は忘れました
傷も忘れました
あのひとが与えてくれたこの傷も
焼かれてしまえば痕(あと)は残らず
燠(おき)が幻のようにくすぶり続ける
きれいだと眺めていればそれですむ
紅く 紅く 何て美しい
せめて沈みゆくこの最後の残光に似せ


恋はもう忘れました
ため息はもう忘れました
誰にも知られず花を摘む
夕闇の白い指先が血ににじむまで
恋忘れ草 恋忘れ草
あのひとのあのまなざしを忘れるために
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