「 ひとくちの月。ふたくちの夜。 」/PULL.
 






濡れた月は、
この上ない美味である。
薄く雲のかかった、
十六夜月の、
あの豊穣さといったら、
想い出しただけで、
灰色の大脳が蕩けてしまう。

満月の月は、
あまり味がよろしくない。
未熟というには、
いささか熟し過ぎており、
熟れたというには、
今少し青過ぎるのである。
口当たりの方も、
まろやかさに欠けること甚だしく、
きつい酸味が舌を刺すのが、
これまたいただけない。
あれを好んで食する輩は、
軽薄なファーストフードと、
おぞましい化学調味料漬けの、
呪われた大脳の持ち主に違いない。
昨今の世の食文化の乱れは、

[次のページ]
戻る   Point(21)