夏風の子/
佐野権太
いく
雲を押しにいくのだという
時をおかず
夕立のシャワーが降り注ぐ
丸刈りの少年が
はしゃぎながら駆けていく
その速さ
夏風の子は
追いかけて、追いかけて
ぐんぐん加速していく
少年の白いシャツの背をくぐり
胸を大きく膨らませる頃
空はみごとに拓(ひら)かれ
日輪が力を取り戻す
ちぎれ雲が
流れながら染まってゆく
夏風の子を肩に乗せた少年の
真っすぐ見つめる
その向こう
空の溶けてゆく
その先に
紛れもなく
太い夏
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