陶器/アンテ
 
場を埋めつくしていた人たちが
どこにも見当たりません
目をこらすと
遠くに立っている柱に凭れて
ぽつんと立っている人がいます
顔立ちもわからないくらい離れているのに
どんな表情をしているのか
手に取るように思い描けます
とても懐かしいのに
名前も声も思い出せません
あの人なら
ここがどこなのかを教えてくれるかもしれない
夢中で駆け出します
するとどこからともなく
たくさんの人々が現れて
広場をあっという間に埋めつくします
しゃべり声と足音がまざりあって
頭のなかまで入り込んできます
人混みを必死にかき分けて
やっとのことであの人がいた場所に辿り着いても
どこにも見当たりません
息を整えながら
ホールを行き交う人たちを眺めていると
気持ちが静まります
だれもみな顔が陶器のようにまっ白で
目まぐるしい流れを見ていると
気が変になってしまいそうで
柱にもたれて
顔をふせてじっと息をひそめます
ここはどこなのだろう
どれだけ考えても
いっこうに思い出せません




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