透けていく、夏/望月 ゆき
つしか
記憶が行方知れずになった
水のない空の波のまにまを
息をとめたまま
泳いでいると ときどき
忘れていた、あのひとのクロールの
波動が
皮膚をふるわす
呼び起こされそうになる瞬間、
遠くから つよい風が吹いて
目をさます
部屋は、まだ
湿気をのこしたままで
そうして、わたしの中にだけ
だれもいない
理由のない明日へと
開け放たれた
いつまでも曇らない窓ガラスから
見たことのない、夏が
透けていく
彼方からの気流にのって 届いたそれは
もう、名前もしらない
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