音もなく朽ちる世界/朽木 裕
 
ひとりの人間の個体がこの世から存在しなくなった日の空は
ただただ、白かった。骨みたいに。煙みたいに。


早朝から喪服に袖を通す。
日常が非日常を内包する。
生きているから人は死ぬ。

ただ、それだけの事。


柩の蓋を外して見たかんばせは妙に土気色をしていた。
(あぁ、でもこんな顔色だったような気がする、
だってお酒が大好きだったし)

柩の中に納まった身体はあまりにも小さい気がした。
(あぁ、でもこれくらいの身長だった気がする、
それほど大きい印象もなかったし)


今ここに居るのは確かにその人なのだろうけれど。


何かが決定的に違う。
何かっ
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