黒猫さん/松本 涼
の忘年会の席で
僕は黒猫さんの隣に座ったので
黒猫さんに名前の由来をそれとなく聞いてみた
黒猫さんは静かに笑いながら
さあ 何かのきかっけで誰かが言い始めたんだんだけど
随分前のことだからね 忘れちゃったなと言った
それからしばらくして黒猫さんは
四国の支社へ転勤になった
単身赴任ではなく奥さんやお子さんも一緒だった
そして黒猫さんが転勤して半年ほどたったころ
僕の自宅に黒猫さんから荷物が届いた
かつおぶしだった
僕は不思議な気持ちで
黒猫さんから届いたかつおぶしを眺めた
黒猫にかけた冗談なのかなとも考えたけれど
黒猫さんはきっと大真面目に送ってくれたのだろう
翌日会社に行くと みんなの自宅に
黒猫さんからかつおぶしが届いていたことを知った
僕は今でも時々黒猫さんが
自分のデスクで奥さんのお弁当を
ひっそりと食べている姿を思い出す
僕はきっと黒猫さんが大好きだったのだ
名前のついた理由なんてわからなくても
黒猫さんには黒猫さんという名前が
とても良く似合っていたのだから
戻る 編 削 Point(8)