いちじくの、空/山内緋呂子
彼は 全身を 金糸で縁取ったような人でした
スーツを着て 遠くから 歩いてくると 白檀の香りがするような人でした
髪は 肩まであって お家では 私が三つ編みにしてあげていました
インドの僧侶が着るような オレンジ色のマントがお気に入りでした
お家の近くには いちじくの木があって 私は 初めて その香りをかぎ
ました
食べたくなると 盗んだら 悪い子なので スーパーで買ってきて 二人
で食べました
バスで行く 遠くの公園では 長い階段を登る私を 階下から 写真に
収め そばにいるのに 「麦わら帽の少女が遠くへ行ってしまう」と悲しそ
うでした
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