サイレント・ブルー/光冨郁也
 
。彼女の筋肉が陰影をもつ。

太陽が海面の上で、光をはなっている。海中から見上げる空は、静かな青。いく筋もの光がわたしをつかもうとする。女の腕の中、乳房に頭をあずけ、浴室に置き忘れた眼鏡を気にしながら、わたしは子どものように、身をまかす。彼女のひれがわたしの足にあたり、彼女の緑の、長い髪が、わたしの首筋にからまる。海の底、女に抱かれた、はだかのわたしに、魚が、群がる、静かな青。女は、わたしの二の腕に唇をあて、舌をはわせ、歯をたてる。のぞきこむ彼女の目から、わたしは視線をそらす。

ふいに、車の音がする。母が庭先に車を駐車しようとしている。近視の目を開けると、窓から風が吹いている。わたしがよりかかっていた銀の浴槽から、頭を起こす。そのまま、長い吐息を水面につく。後ろの海の写真で、水がはね、鏡にオビレが映り、消える。わたしの、ぼやけた視界に、海がゆらめく。

わたし、しかいない浴室で、折った膝を抱える、アクセサリーの球面。




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