描いた青の軌跡は/佐野権太
本当はセリカがよかった
が、人気車には、やはり手が届かなくて
中古車屋のおやじに勧められるまま
同じエンジンだというコロナにした
家に帰ってよく見ると
左のドアが少しへこんでいた
―――ドライブしよう
さりげなく誘うと
君は驚いて
同じエンジンだと胸を張ると
大げさに喜んでくれた
セリカがいい
と、最初に言いだしたのは
確か、君の方だった
のに
ふたりの新しい空間は
こじんまりしていて
君の吐息をやたら近く感じて
前ばかり向いて
アクセルを踏んだ
夏
―――セリカよりも速く
公園の駐車場
スローバラード
長い睫毛がまばたくような
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