冬の暦/狸亭
 
列車は夜もすがら
  牛のように走った。

  南国の師走の夜を十二時間
  上段の寝台にゆられてる快感。
  暗いあかりの輪の中で読む
  池波正太郎短編集は要を得て簡。

  いつしかつかれてきて眠った。
  朝めざめて身を起こすとき頭を打った。
  下段の大男の乗客はまだ
  カーテンを下ろしたままだった。        

 起き出して細い梯子を降り顔を洗ってデッキに出た。しらじらと夜が明けてきたところだった。

  雨上がりのような一面の靄だ。
  見渡す限りの水田と椰子の林だ。
  太陽の興奮が急速に胸に迫って来て
  みるみるうちに明るくなったのだ
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