横になる、夏。/夕凪ここあ
見えるくらいの丈のスカートが
汚れることなど気にせずに
チョークの匂いよりましだから、と
寂しそうに笑う
彼女には夕焼けが似合いすぎるから
深呼吸だけはしてほしくはなかった
それから夕焼けが溶けてしまわないうちに。
僕たちはようやく体を起こし
フェンスに遮られながらも
ずっと遠くの、知らない町を見ようとしていた
それでも知らないものは知らないままで
鳥になれたらいいのにね、と僕がひとりごとのように言うと
彼女は、
夕焼けになりたい、と。
また寂しそうにするので手を握りかえすと、ちゃんとあったかい。
僕たちは曖昧なもので繋がれていた、あの日。
階段を下りて、校舎を出る頃には
薄い夜が僕たちの間に溶け込んできて
知らない間に
君の姿が見えなくなってしまっていた。
僕は知らないものを知る方法すら知らなかった。
明日、また屋上に行こうと約束した日から
僕はもう、とっくに明日を通り過ぎてきてしまったから。
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