Tea For One (ひとりでお茶を)/石畑由紀子
ーケースを見に行こうか……と席を立とうとした直前、ウェイトレスが微笑みながら静かに私の席にやってきた。
「失礼いたします、ただ今試作品で紅茶シフォンを焼いたのですが、よろしかったら召し上がっていただけますか?」
驚いた。これはたまたまのことなのか、毎日行われているサービスなのかは判らないが、ウェイトレスは賑わっているカフェ内の私だけに声をかけたのだ。不思議な気持ちとともに、嬉しさが込み上げる。よろしいのですか?
「ありがとうございます、ぜひいただきます」
二人で静かに微笑みあう。
二杯目の紅茶をカップに注いでから角砂糖の包み紙を剥がし(久し振りに包み紙のある角砂糖で紅茶を戴いた
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