野良犬とサラリーマン/松本 卓也
 
点滅する信号に気付いて
駆け出す僕の背中越しに
野良犬が小さく吠えかけた

立ち止まり苦笑い
どうせ誰も待ってないから
そんなに急ぎなさんなって
そういう事を言いたかったのかい?

ただ孤独しか零れてなくとも
多忙の隙間に挟まった自由を
一瞬でも長く堪能して居たい
それは日常へのささやかな抵抗だから

背中に迫る明日に追い立てられながら
僕が僕自身に正直でいられる時間は
間違いなく少なくなっている

首輪の無い野良犬だから
例えば残飯を漁りながら
例えば保健所に追われながら

それでもきっと僕よりも自由なのだろう
そしてきっと僕よりは孤独じゃないだろう
意思や理性よりも本能を従えて
タフに生き延びている姿から
僕は何を学べばいいのかな?

気が付けば再び信号が点滅していて
立ち去る犬を尻目に もう一度苦笑い
もう少し待っていても良いや
別に明日死ぬ予定じゃないのだから

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