初夏がまわしたオルゴール/佐野権太
 
駆け足だったあの頃
躓(つまづ)くたびに零れた
ぎこちない音も
こうして、つないでみれば
いつか、優しい旋律

奏でられる音階、の隙間
置き去りにした、いくつもの溜息
そっと、触れてみたくて

走りだす電車の窓の速さとか
繋がらない電話の液晶の明るさとか
染めてはいけない君の白さとか
さらけ出せない自分の弱さとか

中途半端に停止した
飴色のドラムは
いつかの、儚い焦燥

忘れた頃に弾かれる
鍵盤の一滴(ひとしずく)は
あの日の、遠い残響

 (最後まで
 (返せって、言ってくれないのね

ずっと
握り締められてた
合鍵の温もり
理由なんて
あるようで、なかった

ただ
君が想うほど
僕のドラムは
大きくは、なかった

*

子供が生まれたと聞きました
初夏の白い風が、優しく教えてくれました

男の子だと
元気な 男の子だと

戻る   Point(15)