初夏がまわしたオルゴール/佐野権太
駆け足だったあの頃
躓(つまづ)くたびに零れた
ぎこちない音も
こうして、つないでみれば
いつか、優しい旋律
奏でられる音階、の隙間
置き去りにした、いくつもの溜息
そっと、触れてみたくて
走りだす電車の窓の速さとか
繋がらない電話の液晶の明るさとか
染めてはいけない君の白さとか
さらけ出せない自分の弱さとか
中途半端に停止した
飴色のドラムは
いつかの、儚い焦燥
忘れた頃に弾かれる
鍵盤の一滴(ひとしずく)は
あの日の、遠い残響
(最後まで
(返せって、言ってくれないのね
ずっと
握り締められてた
合鍵の温もり
理由なんて
あるようで、なかった
ただ
君が想うほど
僕のドラムは
大きくは、なかった
*
子供が生まれたと聞きました
初夏の白い風が、優しく教えてくれました
男の子だと
元気な 男の子だと
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