ユリナについて(序)<推敲版>/セイミー
 
ユリナについて書こうと思った。
ユリナは小さな茶色い瞳をして、通りすがりの猫に
かたっぱしから話しかけ、ふと空を指さしては悲し
い顔をする。悲しいのは空のせいではなく、指のせ
いであることに、誰が気付いただろう。その細く黄
色い指先で、猫は生まれ育ち恋をした。
彼女が小声でつぶやくと、土色の夕暮れはビロード
の毛並みへと姿を変え、鈴をいっぱいぶら下げた川
の流れが、いっせいに口を開いてかわいい手を差し
出すのだ。甘酸っぱい光が、川の向こうから渡って
きて、街はイチゴジャムのような香りに沈む。
ユリナは、母の顔を知らない。いや、母そのものの
息づかいを聞いたことがないというの
[次のページ]
戻る   Point(3)