風/セイミー
 
電話のベルが鳴り
風景から影が消えていくのを見届けながら受話器を握る
「あなたは一万人のなかから選ばれました。」
声は筋繊維のように束になっている
間を置くことなくしゃべりつづける受話器を
コトリと置くと
西のほうから茜色の風が
こうべを垂れて歩いてくる
昨日買ったフクロウの置き物はどこへいっただろう
生きてることを忘れたように
呆然と開けられた窓から
地球の影がさし込んでいる
風はふとその歩みを止めると
窓をそっとゆすっていった
あとからあとからやってくる風には
名前がない
風に名前をつけたってきりがないと思うかも知れないが
ぼくら人間だってほんとうはきりがないのだ
風のように生まれ
風のように育ち
風のように去っていく
名付けられなくとも
それはそれで形よくこうべを垂れて
引き戸のひとつやふたつゆすって過ぎる
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