難破船/前田ふむふむ
、使い古された紙幣のように、
薄汚く、晒されているのだ。
風よ。帆を張れ。
雨よ。錨をあげよ。
この、荒れ狂い、叩きつける波先を捉えよ。
かつて、挫折した難破船の航海は、
寂寥とした距離を乗せてこれから始まるのだ。
わたしは、この乾涸びた肉体に、羅針盤を取り付けて
恐る恐る舵に手を添えよう。
忽ち、わたしを覆う地鳴りのような鼓動は、
内なる動揺を抑えて、
暗闇に囚われた、青碧色の宝石をめざす、意志をつくり、
溢れ出る熱情は、堰を切って、
わたしの海馬に押し寄せて、
蝋でつくられた食物群の空白のページを、
艶やかな野生の果実で満ちた
宝珠の森に立ち上げてゆくだろう。
もう、海原をさ迷う木片の夜の熱狂は過ぎたのだ。
わたしの裂けた叫び声よ。恐れるな。
世界の周辺が鳴動している。
わたしの火照る眼差しよ。諦めるな。
朝焼けの喝采が瞬いている。
わたしは、留まることの無い、新しい王国の時代の、
そして希望の真昼の中を、弛まず歩き続けるのだ。
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