古代人のヒッチハイク/岡部淳太郎
割れたものにはすべて
乾いた子音が
その死骸が折り重なって斃れている
だからこそ水を
母のにおいのする甘い水を
私の祈りをあなたの魂にのせてほしい
私の寒さをあなたの魂にのせてほしい
ああああああ
おおおおおお
伸ばした左手の親指の先に
最初の雨粒が滴り落ちる
二十世紀末の
わが生の古代の時の中
その旅の途中の行く先々で
ほんとうの古代人の
うたが聴こえてくる
それは利根川の奔流の中に
それは釧路湿原の緑の中に
それは立待岬の断崖の下に
それは瀬戸内海の波の間に
ほんとうのうたが聴こえてくる
うた! うた! うた!
果てのない
旅の日と夜
あの日々の中で
私はたしかに歌っていた
私はひとりの古代人であった
(二〇〇六年二月)
戻る 編 削 Point(10)