白々しい風/松本 卓也
詰め込まれたスケジュール
思い返しても変わるはずがない
時間を一つずつ手探りするたびに
何を抱えながら生きているのか
だんだんと見えなくなっていくよ
汗と香水と煙の匂いが立ち込める
博多駅二番乗り場での待ち時間
ほろ苦いコーヒーで漱ぐ口に
どれだけの言いたい事を噛み殺し
どれだけの言いたくない事を言ってきたか
数えるのは酷く億劫で
滑り込む電車に奪われる視線
あそこに飛び込んでしまえたら
一瞬の思考が過ぎったかと思えば
幾ばくかの恐怖と共に苦笑いを浮かべる
顔を見合す事の無い群衆の中に
どれほどの感情や痴情が無気力に消費され
コンクリートの壁面に擦り付けられたか
僕に数える術などある訳が無い
僕に識別する理由などありもしない
今日は白々しい風が吹いているから
帰り着く頃にはきっと夢を見ているだろう
枠組みの中で役割を振られる事も無く
自分の居ない情景を幾ら想像しても
誰も泣いてくれなんかしないのだから
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