忘却についての、ささやかな省察 (1)/竜一郎
 
 〈忘却〉について考える。それは、歴史を見つめることから始まる。そこで問われるのは、歴史とは何か、ということでもある。歴史とは死と生の連続である、と私は考えている。戦争の結果も、科学的発展の足跡も、偉人たちの栄誉や栄光も、すべて生と死とに呑み込まれたものたちの慟哭の「こだま」である。歴史、その「こだま」は、ある本のなかにハッキリと見られるものだ。そして、写真に、絵画に、音楽に、建築物に、その他のあらゆる形あるそれらに顕れている。では、なぜ、世界の歩みは、彼らの「こだま」は、私たちがわからないくらいに、すっかり忘却されてしまうのだろうか。

 『笑いと忘却の書』の「第六章 天使たち」のうちで、青
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