金魚/時雨
夏に金魚を掬った。
冬に金魚は死んだ。
悲しかった。
八本目のアイス棒が庭に立てられた。
剥げかけた朱色の腹を浮かべて水に浮く、浮く。
元から死んだような目はさらに光を失い、失い。
エサは十分なくらい、あげた。
水が汚れると、取り替えた。
何が原因かと訊ねると、父さんは
「寒さだ」と一言答えた。
冬の寒気、それでも僕は死なない。
冬の歓喜、僕は友だちと雪合戦。
冬の換気、母さんが窓を開ける。
窓を開けた先にあるのは何も泳がない水槽、だけ。
最初に「金魚を掬った。」と書いたけど、ホントはね、
掬えなかったんだ。
屋台のオジサンがオマケでくれた、たった一匹の金魚。
可哀想に、掬われもせず、救われもせず。
僕のせいで、
もうすぐ春が来るよ。
春が来たら夏が来るよ。
夏が来たら祭りがあるよ。
僕はまた金魚を掬うよ。
そして、アイス棒が九本にならないように、
金魚を救うよ。
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