ラプンツェルの小鬼 或いは内的な物語り/水無瀬 咲耶
と
足元の空隙を ひとつひとつ埋める旅に
逃れられない存在の悲しみ
汚れをすすいですすいで 紅く腫れあがる魂の輪郭
傷口から零れ落ちる甘い蜂蜜の音色は
いつしか コウモリさえも眠らせる
きっと望めば どこからでも始まってゆける
いま 揺るぎなく 強く 溢れだしたい
実ることなど 気にもせず
頼りなく たった一筋でいい
路傍の石よ 拙く儚い言葉たちよ
いつの日か あの蒼穹に香りゆけ
黄金色した麦穂のような旋律を刻んで
灰色にすすけた 枯れ木の手足
或る うららかな日和
私の小鬼は 旅立ってしまった・・・
肩にかついだ皮袋を つむじ風でこっそりふくらませ
生きることに不器用な この罪深い身体が
からからと 軽くなる
幼いころのように大地に寝転んで
遠ざかる足音を聞いていた
芳しい枯れ草の竪琴を装い
言葉たちが私のまわりで
こころよく響くまで
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