歌をうたうピアノ/夕凪ここあ
 

家から運び出されるときに
少女の部屋が見えました
一本のギターが置いてありました
どうやら少女はまだ歌をうたっているようでした
少女が、あのギターもうたうのだ、ということに
気づいているかはわかりませんが
いつかそれに気づいて欲しい、と
そしてそのときには
一瞬でもいい、私がいたことを
思い出して欲しい、と
そっと祈りにも似た想いを抱きましたが
声には決してなりませんでした

私はこのまま死ぬのでしょうか
声を直して誰かとまた出会うのでしょうか
私には知る術はありませんでした

私が行ってしまうその時
音楽が聴こえてきました
私と少女がかつて一緒にいた
あの部屋から



私は確かにあの日、
一枚のピアノとしていられたのです。
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