歌をうたうピアノ/夕凪ここあ
お母さん、
私ピアノは嫌いなの。
だってピアノはうたわないもの。
そう少女は言い残して
私は捨てられました
部屋の隅に置き去りにされた私は
つい先ほどまでの幸せだった時間を
思い返しました
確かに幸せだった時間はあったのです
しかし少女はもはや私になど目もくれず
今は実に楽しそうに
歌をうたっています
私は歌を恨みたくもなりましたが
私も歌を奏でる端くれなのですから
余計に惨めになると思い、止めました
人間は私がうたうなどとは思ってもいません
人間にとって私はただの音で
歌とはつまり人間がうたうものだからです
忘れられたピアノは
それはそれは空しいもの
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