電線に吊るされたまま発信しているテレビのようなそれ/佐藤伊織
 

或るおかしな人生が終わろうとしてい

煙草の火がさっきから

わたしは震えながら手で三角形を作り

とおしてみた街路の人影を噛み殺す

ちぎれた紙切れに書いておいた「ありがとう」の文字

わたしはどこかに逝ったまま

砂嵐に紛れて消えていこうとする誰かの影

眠れない 眠れないと泣く子供のような死体の群れに

わたしは煙草の火をつけようと震えた手で

ライターに

砂漠のように乾いているのはただ

わたしの頭上に億万の電線

わたしはただこのテレビジョンの風景を眺めては

その嵐の中に吹き飛ばされていくたくさんのためいきにつつまれながら

そのおかしな一生に

おかしなおかしな一生に
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