二月のバラッド/狸亭
 
い」二十三歳のエクリチュール
正面から「出獄のO氏」に見据えられどうにも切ない
半世紀前の時空をよぎった緊張がいまもおれを責め立てる
外に出れば「さば味噌煮定食」六五〇円のひるめし埒もない

むすめにつれられ市民体育館で減量に挑戦
血流をきれいにするという高電位治療器に座ってみる
アライスイギョウ写真展「夕日の詩」を見て酒のんで終電
日本全国の日没ばかり追いかけてきたカラースヴニール
めぐりきたおれの夕暮れ家族にかこまれてのむ黒ビール
新橋ガード下の安い床屋も来月は値上げをするらしい
(しびとていしびと)天彦五男『鴉とレモン』青春のカクテル
狸亭偽詩人田貫諦市『タレー』私家版のものぐるい

だれもかも似たようなしぶとい顔してはびこる
いまや不動の大地なく理想の青空なく人間の倫理もない
寺田透も逝った司馬遼太郎も逝ったとうろたえる
めぐりきた五十八回目の誕生日はなんともはや味気無い


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