ゆうぐれ/紫翠
 
街に灯のともる 夕暮れは
さびしくて
たえられないと だれかがいった

群青の空に
森の影が 長くのびて
かたかた風に つららが揺れる

でも
私はしらない
この夕べにも はるか空を吹き巻く風を
流れる白い雲を

私はしらない
彼方宇宙の 真空の中
青く音もなく
燃え続ける
星を

私はしらない
夕暮れの冷たさに
力尽き
落ちてゆく
色あせた一匹の蛾を



私はしらない




たくさんのひとが
夕暮れにまぎれ かえっていく
夕暮れを通り抜け 家にかえる
そのひとつひとつを
だれもしらないけれど
ひとつひとつ灯がともるのだろう

かえらない人たちは
ゆうぐれにとけたまま
灯のなかをさまようだろうか

私はなにもしらないまま
夕暮れが寂しいと 言った人を思い出す
足早にかえるその人は
今夜もひとつ灯を点し
ほう、と一息ついただろうか
そっとカーテンをしめて、熱いお茶を飲んだだろうか

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