十月のバラッド/狸亭
 
て独り身の気随気侭
冷房がまだないのでこの夏は悪戦苦闘のあせまみれ
いつの日かマドンナの芸術制作現場を覗いて見たい
酔眼のむこうには魅惑するような目がミステリアス
きらきらひかるあなたの湖にゆれうごいている霊気

とんでもない妄想に振り回されるのはいつものこと
リアリズムには目をつぶりリリシズムについて語り
やがて来る定年の日を指折り数えて待っている暮夜
魔羅をかかえて虚空を睨み耐えている宿命のカルマ
「鈴慕」の曲たしかにあれは机龍之介の尺八の戯れ
命が細りすすりなくようなあの音色はまさに天下一
推敲の魔となっていざ情痴の鬼とたたかわんと欲す
基礎年金がもらえるまでおれあと二十九カ月の苦役

灯火親しむ多摩の狸亭にひたすら本を読む世間離れ
リンゴ酒の甘いにおいにむせながらなぜかせつない
ヤーからの便り途絶え日々に立ち枯れてゆくエロス
満月に吼えるやせ犬の赤い口から吹き出す白い呼気


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