若き金物師のプライド/麒麟
 
15の頃に父さんを亡くして
見よう見まねで金槌を継いだ
枯れ枝のような細い腕には
重すぎる槌。

鍋の打ち方なら知っていた
父さんの背中ばかり見ていたから。
銅板に振り下ろす一撃に
魂を込める。

一年ぐらい経つだろうか、少年は
毎日の仕事終わりの時間を繋ぎ
余った銅片をつなぎ合わせ
鈍く輝く鶏を作った。

少年は玩具の一つも持ってなかったから
他のどんな鍋よりも
一撃一撃に
魂を込めた。

疲れ果てた母親は、右の平手で少年を打った。
「お金になりやしないじゃないか」
「お前はわかっていないんだ」
「金物師が鳥を造ったって、何の価値などあるというんだい?」

少年が一人泣いた夜
満月が朝に呑まれる頃に
銅の鶏は卵を産んだ。
鈍く輝く、赤銅の卵。

母親は嬉々として
銅の卵を取り上げたから、
少年は悲しげに鶏を見つめ
垂直に、金槌を振り下ろした。

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